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Thursday, 23 October 2014

#strongcanada カナダ人と赤色


2014年10月22日午前10時ごろ(日本時間の午後11時ごろ)、私の住む町オタワで銃撃戦が起きました。ひとりの犠牲者を出したこの事件は、オタワに住むカナダ人の心に、深い悲しみと傷を残しました。



平和と自由を真に愛するカナダ人。拳銃と人種差別を嫌います。そして、世界中の難民に手を差し伸べ、弱者に優しく、同性愛者を区別せず、すべての宗教を良しとし、異なる文化や慣習を楽しんで受け入れてきた自国カナダを誇りにしています。



それに加えて、オタワ市民の誇りは自然に囲まれた、平和で美しい町なのです。二本の大きな川を中心に広がった町オタワは、緑でいっぱいです。川に面してそびえ建つ国会議事堂の敷地内は、誰もが自由に出入りできる憩いの場。建物の頂上にひるがえる国旗の赤色は、カナダ人の愛する心を表しているかのようです。その向かいにあるのが、戦没者記念碑です。第一次世界大戦の間、ドイツからヨーロッパ各国の自由を守るために、遠くカナダから参加し、命を落とした兵士たちの記念碑です。多くの戦死者はヨーロッパからの移民で、かつての自国の自由を守るために戦いました。自由を愛するカナダ人の象徴です。

朝の気温がマイナスを指し、町中の木々が鮮やかに色づき、ダウンジャケットに包まれた心がほんの少しクリスマスに向けてときめき始めたこの時期に、事件が起きました。

事件に使われた武器が拳銃であったこと、場所が戦没者記念碑であったこと、事件がテロと呼ばれ、犠牲者が自国を守る兵士であったこと、その兵士が国のために働くことを夢見て地方からでてきた若い父親であったこと、ひとつひとつが、じわりじわりと心をつくのです。

誰からともなく発信され、メディアに取り上げられたひとつのアイデア。

#strongcanada 

24日の金曜日は、赤い服を身につけ、彼を讃えよう。

平和と自由を愛し、武器と差別を憎む。カナダ国旗の赤色は、そんなカナダ人の心の色です。

24日の金曜日、犠牲になった兵士が500km先の町に帰郷します。

(25日に追記:2014年10月24日の金曜日朝、オタワ市内の高速道路沿いは、赤い服を着てカナダ国旗を手に持った人たちで埋め尽くされました。カナダを愛し、カナダに仕えることを誇りとし、スコットランドのキルトに身を包み弾丸が抜かれたラフルを持ち戦没者記念碑の横で「カナダ国の自由のシンボル」となることを志願した若い兵士。カナダ軍の制服を着て、この日カナダのシンボルとなっていたために消えてしまった命でした。彼が乗る車見て、高速道路を走っていた車は脇に寄り停車。多くのカナダ人が、横たわる彼に、平和と自由のために強くたつことを誓いました。


PS. 23日に予定されていたノーベル賞受賞者マララ・ユスフザイさんの、カナダ市民権授与式が、延期になりました。カナダ人と同じように彼女も、平和と自由を愛し、武器と差別を憎む人権活動家です。

もう少し詳しいカナダの平和については、「平和を意味するカナダの国旗」の中で!

Sunday, 9 February 2014

カナダ人の定義


2014年2月7日、カナダ時間午前11:15、ソチオリンピックが始まりました。

私が務める会社は、カナダのオリンピックチームの公式スポンサーの一社です。オリンピック開幕に先駆けて、本社から広告用のイメージ写真が送られてきました。

社内では、それらのイメージを使って、メーラーOutlookの署名を各自で作ろうということになりました。使えるチャッチフレーズは、「いけ!チームカナダ」、「がんばれ、チームカナダ」、「おめでとう、チームカナダ」など、5種類あります。

私は「がんばれ、チームカナダ」を選びました。

オリンピック開幕日、「チームカナダ!カナダ人であることを誇りに思うよ!」と書かれた署名とともに、同僚から業務メールが届きました。返信文に追伸を付けて送り返しました。

「あー、残念!私はカナダ人じゃないから、このイメージ写真は署名に使えないなぁ。」

同じ同僚から返信が届きました。

「手遅れだよ!!笑 この極寒の冬に耐えてるってことで、すでに立派なカナダ人だよ!」

多文化国家のカナダでは、なにをもってカナダ人と名乗るのか、とても難しいところです。

日本人の定義が、日本人の親から生まれ、日本国籍を持ち、そして母国語が日本語である、というのなら、カナダ人の定義はもっと難しい。
それならば、寒いカナダの冬を耐え抜く人=カナダ人としたほうが、とても分かりやすいのかもしれません。

ソチオリンピックでは、Japanadaというニックネームで知られるカナダ生まれの日系二世 アツコ タナカ選手が、カナダのスキージャンパーとして戦います。

近所のスーパーのディスプレイ

Wednesday, 30 January 2013

平和を意味するカナダの国旗


昨年の暮れから通いはじめた語学学校に、新しいクラスメイトがやってきました。

茶色く染めたストレートの髪の毛を肩までたらし、ふくよかな体をスーツに包んだこの知的な女性が、流暢な英語で自己紹介をします。

名前はアン。カナダには4年半前に来ました。イラクからです。
市民権の申請に必要な語学力を身につけるために、ここで学びたいと思います。
私は、カナダの市民権を取得するために、家族と離れてここにひとりで住んでいます。

「家族はまだイラクにいるの?」教室のはじから、声が飛びます。

息子が3人、私の両親とともにイラクで生活しています。夫は、戦争のときに銃で撃たれて死にました。これをきっかけに、カナダへの移住を決心しました。子どもたちの命は、私が守らなければ。

左手の薬指にある指輪をそっとなでながら、アンが続けます。

もう8年近く、子どもに会っていないんです。3年間、ひとりでシリアで暮らして、カナダの移民権を待ちました。この間、イラクと交流を持つことは許されませんでした。子どもたちに会いに行くことさえね。

カナダに来てからは、住む場所を探したり、正社員の仕事を得たりで大忙し。子どもたちを呼び寄せるためには、安全な場所に家を構えて、安定した収入が必要だものね。最近、引っ越しをしたの。市民権の申請まであと半年。子どもたちと住むには、いままでのところでは小さすぎだもの。あと、車も買ったのよ。

市民権が下りて、子どもたちを引き取るために帰国する日がとっても待ち遠しい。夢がもうすぐそこまで来ているのよ!

カナダの首都オタワに建つ国会議事堂の中央の建物は、ピースタワー(平和の塔)と名付けられています。ここには毎日、真新しい国旗が掲げられます。
ピースタワーにそびえるカナダ国旗が、無条件の平和を求める移民や難民たちの希望を支えています。

一日の仕事を終えた国旗は、市民にプレゼントされます。現時点で、38年間待ちですって。


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Wednesday, 22 August 2012

異文化を理解するということ


私が通う職業訓練校のシステムは、日本の職業安定所に似ています。雇用保険はもらえないけれど、就職をバックアップしてくれる就職カウンセラーがいます。利用者の状況に合わせて、仕事の見つけかたや履歴書の書きかた講習、プレゼンテーション方法伝授の講座など、さまざまな授業を紹介してくれます。

カナダで社会人デビューしたばかりの私に担当カウンセラーが紹介してくれたのは、就職後の異文化理解のためのワークショップ。

仕事を初めて一か月。すでにたくさんの疑問が生まれていました。

How are you? (元気?)と聞かれたら、I'm fine, thank you, and you?(元気よ。あなたは?)と応えるのは正しいこと?毎朝、同僚みんなに聞かれるけれど、同じ応えを繰り返すの?

社長をファーストネームで呼んでいるけれど、失礼ではないの?ちゃんと敬意を表わせているのかしら?

ワークショップのトレーナーは、こんな私の質問に、うれしそうに答えをくれました。


そう。完璧よ。I'm fine, thank you, and you?と毎日、みんなに応えて。あなたの状態なんて、実は誰も気にしていないんだから。みんな形式的に聞いているだけ。仲良くなるまではね。

月曜日には、週末はどうだった?なんて聞かれるかもしれない。あ、聞かれている?そのときはなんて応えているの?良かったわ、だけでは、物足りないわよ。だってこのときが、お近づきになるチャンスだもの。釣りに行ったとか、ケベック州に初めて行ったとか、そんなことを話してみるといいわよ。そこから会話が広がって、形式だけの朝の挨拶をする関係から、友達に発展するかもしれないじゃない!

あなたは日本から来たんだったわね。気持ちは分かるわ、上司を呼び捨てにするのが居心地が悪いんでしょ?でも実はね、ファーストネームで呼ぶのは敬意を表すひとつの方法なの。○○社長、とか○○さんなんて呼んでいては、逆に失礼なのよ。北米では、相手を理解するということが、敬意を表すということなの。相手を知っているからこそ、ファーストネームで呼んで、距離を縮めるわけ。

相手を理解することと、敬意を表すことについて、ちょっとしたエピソードがあるのよ。かつて私のワークショップに参加していた女性の話しをするね。彼女がボランティアとして会社に所属をしたときのこと。社内にコーヒーメーカーはあるのに、それが使われていないのを見た彼女は、まわりの人に聞きました。コーヒーメーカーが使われていないのには、なにか理由がありますか?って。誰も淹れようとしないから、これが理由。「じゃ、私が毎朝、コーヒーを淹れますよ」。彼女はよろこんで毎朝、コーヒーを作り始めました。

その後、社内でクリスマスパーティーをすることになったんだけれど、運営委員なんてめんどくさいから誰もやりたがらなかったそう。彼女また、「クリスマスパーティーは開催したことも、参加したこともないけれど、私お手伝いしますよ」と名乗りを上げたんですって。全身の肌を覆った、目だけ見えるイスラム教徒の女性がよ。

相手に歩み寄っていくことが、相手を理解すること、そして敬意を表すことなのよ。

もちろんこの女性は、すぐに正社員として雇われることになったわ。


「異文化」などと難しい言葉にしてしまうと分かりにくいけれど、相手に歩み寄って理解しようと努めれば、どんな場所でも上手くやっていけるような気がしています。

Sunday, 19 August 2012

カナダの文化と言語


日本人は、箸を使って食事をします。
日本人は、風呂に浸かったり、温泉に入ったりします。
日本人は、ものごとに正確性や完成度の高さを求めます。

では、カナダ人はどうでしょう。

カナダの文化や慣習を述べることはとても難しいんです。なぜかというと、カナダ人はみな、どこか別の国から来た移民たちだからです。

カナダでは、多くの場合、文化は個性として捕らえられます。つまり、

ききは、箸を使って食事をします。
ききは、風呂に浸かったり、温泉に入ったりします。
ききは、ものごとに正確性や完成度の高さを求めます。

となるのです。

建国から約150年のカナダには、伝統や文化が多くありません。中南米やアフリカ、アジア、中東やヨーロッパ諸国から渡ってきた移民たちが持ち込んだ自国の伝統が、カナダで「個性」という名の「文化」となって、息づいています。

単一民族の国、日本に生まれ育った私には、この、「多民族/多文化国家」がなかなか理解できません。なにか嫌なことを経験するたびに、ついつい「カナダ(人)は!」と責めたくなるのです。

望めば、私だってカナダ国籍を持つカナダ人になれるのです。「カナダ人」は、「カナダ国籍を取得した移民」という意味になるのかもしれません。

言語だって同じことです。カナダ英語はどんな音なのでしょう。

日本でTOEICの勉強をしていたころ、リスニングテストに、それまでのアメリカ英語だけではなくカナダや豪州、英国の発音が導入されると聞き、恐れさえ感じました。カナダに来るまでは、カナダの英語はアメリカの英語に似ているのだろうと思っていました。

しかし、違うんです。

スペイン語を母国語とするカナダ人の中には、yetをジェットと発音する人もいます。フレンチカナディアンの中には、英語を話すときにフランス語同様にhを発音したいため、hate(嫌いです)をate(食べました)と言う人だっています。

これもまた、個性です。

そんな多民族/多文化国家のカナダでは、一か月続いたイスラム教の断食月・ラマダンがそろそろ終わろうとしています。

Friday, 15 June 2012

身分証明書


カナダに来て3か月が経ち、ようやく生活に必要な以下の身分証明書がすべて揃いました。
1) 運転免許証
2) 社会保険番号証
3) バスの身分証明書
4) 永住登録カード
5) 健康保険証

カナダに来てまず入手したのが1)の運転免許証。
在カナダ日本大使館で、日本の運転免許証の翻訳を入手し、それを持ってオタワの運転免許センターを訪れました。書類にサインをしたり、写真を撮ったりして、15分後、その場で仮の運転免許証をもらいました。2週間後には、運転免許証が自宅に発送されました。
手元には日本の運転免許証も残りました。

オンタリオ州は、9か国と運転免許証に関する特別な協定を結んでいるようです。米国、韓国、スイス、ドイツ、フランス、英国、オーストリア、ベルギー、そして日本が発行した運転免許証を持っている人は、無試験で、オンタリオ州の運転免許証を手に入れられるわけです。
つまり、私はオンタリオ州の運転免許証を、お金で購入したような形になりました。

カナダで仕事をするために必要なのが2) の社会保険番号証です。通常、SINカードと呼ばれていて、日本の雇用保険番号のようなものです。この番号は、確定申告、所得税の支払や払い戻し請求などに使われるようです。カナダで就職したら、雇用主にこの番号を伝えます。番号がなければ、仕事ができません。

バスの定期券を購入するためには、3) のバスの身分証明書が必要です。そして乗車時にはいつも携帯しなければいけません。定期券とこの身分証明書を一緒に、バスの運転手に提示します。

なによりも大事な身分証明書が、4)の 永住登録カードです。カナダ政府は、ここに記載された番号で、私の永住者としても情報を管理します。移民のためのサービスを受けるときは、この番号が必要です。カナダに出入国するときには、日本のパスポートと共に必ず携帯しなければならないのも、このカードです。
永住権を持ってカナダに初上陸をしたときから、永住登録の手続きがはじまります。そして2か月ほどで、自宅に永住登録カードが送られてきます。

カナダに住む国民と、労働ビザを持ってる外国人とその家族、そして難民と永住者は、カナダの国民医療が受けられます。無料で、病院にかかれるのです。該当の権利を持ってカナダに初上陸してから3か月後から、適応になります。

明日で、永住権を持ってカナダに上陸してから3か月が経ちます。それを前に、ついに5)の 健康保険証が手元に送られてきました。

3か月。
未だに仮住まい中ですが、カナダの生活にも慣れてきました。

Thursday, 31 May 2012

職業訓練校 2〜ライティング編


職業訓練校に通っています。
1日4時間のクラスを2クラス取っています。ビジネスマナーと、ビジネス文書のライティングのコースです。

移民の国カナダには、移民のための学習プログラムがたくさんあります。プログラムの内容もさまざまで、語学学校で英語やフランス語を学んだり、就職相談をしたり、文化を学んだりできるのです。これらのコースが無料か、30ドルほどの登録料を支払うだけで受けられます。

私が通うのはどちらも超人気のコース。定員19名が、募集がかかってから2~3日の間で埋まってしまいます。

【ライティング編】

週3回の、このコースに通い始めて5週間が経ちます。夜のクラスなので、帰宅が23時近くになります。帰宅してすぐに寝床に入るほどに疲れますが、授業ではいつも新しい発見があります。

習うことは、正しい文法の使いかたと、読んでもらえる分かりやすい文章の書きかた、読み手の利益を考えた広告ライティング法です。

普段は読むことのない英語の本も、教科書ならば別です。厚さ3cmもあるのに、熱心に読んでいます。

文章を書くことが好きな私。
教科書に書かれたテクニックを使って、自分の書いた文章を書き直していきます。そうすると、それまでべったりと紙に貼り付いていた文字たちが、生き生きと踊りながら紙から飛び出してくるのです。これがなんとも言えない快感です。

日本語には、句読点の打ちかたに決まりはありません。英語にはあります。ピリオド (.)やコンマ (,)のほかに、セミコロン (;)やコロン (:)もあり、それぞれの使いかたにルールがあるのです。

夜のコースなので、生徒たちは仕事を持っている人たちも少なくありません。仕事に関わるビジネス文書のテクニックとあって、授業に取り組む姿勢も真剣です。

間違えることを楽しんでいたエリートな移民たちも、5週間を経た今では、なかなかサマになった文章を書けるまでになっています。

8週間後の修了までに、どれくらい上達するか楽しみです。

ビジネスマナーについては、「職業訓練校~ビジネスマナー編」をご覧ください。

Thursday, 10 May 2012

職業訓練校〜ビジネスマナー編



職業訓練校に通い始めました。
1日4時間のクラスを2クラス取っています。ビジネスマナーと、ビジネス文書のライティングのコースです。

移民の国カナダには、移民のための学習プログラムがたくさんあります。プログラムの内容もさまざまで、語学学校で英語やフランス語を学んだり、就職相談をしたり、文化を学んだりできるのです。これらのコースが無料か、30ドルほどの登録料を支払うだけで受けられます。

私が通うのはどちらも超人気のコース。定員19名が、募集がかかってから2~3日の間で埋まってしまいます。

【ビジネスマナー編】

待ちに待った授業の初日。
不統一な肌色と、髪の毛の色の生徒が集まってきます。南米やヨーロッパ、アフリカ、中東、アジアの国から来た移民たちが、同じ言語で会話をし、授業を受けます。大半が大学教授や薬剤師、弁護士、獣医師などのエリートたちです。カナダの移民審査はポイント制です。学力や職歴、スキル、語学力など、あらゆる審査に合格して移住して来た彼らは、エリートであって当然なのです。のほほんと移り住んで来た私とは、訳が違います。

エリートたちがここカナダで職業訓練校に通う理由は、たったひとつです。ビジネスマナーを身につけること。文句なしの経歴を持ってやって来た彼らに欠けているスキルは、この国の社会にとけ込むだけのビジネスマナー。

少し考えてみてください。
私たち日本人は子どものころから、家庭でも学校でもお辞儀のしかたを学びます。正しいお辞儀のしかたを聞かれたら、きっと誰もが同じように答えるでしょう。

両手の指先をピンと揃えて、それを両太ももの外側に付け、腰を前に45度に傾け、視線は床に落とす。お尻が飛び出さないように、注意をする。

これが握手のしかたとなるとどうでしょうか。
さて、どんな状況のときに、どんなタイミングで、どれくらいの握力で、どれくらいの長さの握手をしたらいいのでしょう。

初めて出会う人には、自分から率先して右手をまっすぐに伸ばします。伸ばした先の手は、親指を上に向けて、残りの4本の指は揃えて前に伸ばします。差し出された相手の親指と人差し指の間、つまり水かき部分と、自分のそれをピタリと合わせ、しっかりと握り合います。強すぎると相手に恐怖を与えます。弱すぎると、相手の不信感を招きます。自信と信頼感を込めてしっかりと握り、上下に3回振ります。左手は、ゆったりと床に向けて伸ばします。視線は、相手の両目と鼻をつないだ三角形の中を、行ったり来たり。
上司に同行した場合は出しゃばらず、座っているときは立って、相手の手を握ります。
これが正しい握手のしかただそうです。

湿った手で握手するのは、相手に失礼です。両手で相手の手を包み込むと、なにかを企んでいるように思われます。親指以外の4本の指のみを差し出し、相手に握ってもらうのはビジネスの場では非常識です。

簡単なようですが、これがなかなか上手くいかないのです。生徒同士で何度も練習を重ねますが、クールにできるまでには少し時間がかかりそうです。

異国の地で成功を狙う無職のエリートたちの疑問は止みません。
メールの題名は?宛名のMr.の後ろはどう続くの?書き出しは?締めくくりは?
プレゼンテーションの出だしはどんな言葉がいいの?会議中の質問はどう切り出したらいいの?

毎日、4時間があっという間に経ってしまいます。

ビジネス文書のライティングについては、「職業訓練校 2〜ライティング編」をご覧ください。

Tuesday, 1 May 2012

異国の地で



マダム ガッドマイルの家を訪れたのは、カナダに上陸してから数日後のこと。

アパートが見つかるまで仮住まいをしていますが、日本から送った荷物はさすがにひと部屋には入りきらず、仮住まいからバスで20分のところにあるマダムの家の地下室で預かってもらっています。

お目当ては衣類。

気温がめまぐるしく変化するオタワで生きていくには、洋服の着こなし術を身につける必要がありそうです。
5月に入ったこの時期で、朝の気温は0度前後です。日中は5~16度の間を行ったり来たり。これが夜19時ごろまで続きます。そして、夜は0度からマイナスに下がります。

出掛けるときは、下着の上にまずは半袖のTシャツを着ます。その上には薄手のカーディガン、そして厚手(または薄手)の上着に薄手(または厚手)のジャケット。これが基本です。室内はどこも20度くらいと暖かいので、気軽に脱着ができる装いが好ましいのです。

日本から、大量の段ボール箱を船に乗せてカナダに向けて送り出したのには、たったひとつの理由がありました。
カナダに着いたその日から、しっかりと生活をしていけるだけの用意をしておきたかったのです。
この移動は旅行でもなく、転勤でもなく、移住なのです。海を飛び越えたところに位置するカナダに、腰を据えに行くのです。

最低限の身の回り品のほかに、故郷を身近に感じることができる品々を選び段ボール箱に詰めました。それは本だったり、和食器だったり、写真や私宛のカードなどの思い出の品だったり。

「時間は気にしないで。ゆっくり探し物をしてちょうだいね」
とマダム。

地下室に続く階段を降りると、バーカウンターを備えた6畳くらいの広さのリビングルームが現れます。その隣には4畳半くらいのサイズのビリヤード部屋。これらの部屋の向かいにある「倉庫」と化した部屋に、私の荷物が置かれてありました。
箱の数は17個。持参した梱包リストと箱に書かれた番号を頼りに、必要なものを取り出していきます。

ふんわりと箱の中から漂う、懐かしい日本の香り。

このとき始めて、私の決断は正しかったのだと思えました。
送料は予算を超えたけれども、これまで私が使ってきた物たちが、私を外国にいる孤独感から解き放ちます。

思いのほか長居をしてしまったことを詫びて、バックパックにブーツやコートなどの冬服を詰め、マダムの家をあとにしました。
「寂しくなったらいつでも来なさいね」、後ろで聞こえるマダムの声が、私の背中を通過して胸の中を温めます。

それからまた数日後。

外出先で、コートのポケットに入れた手が、何かに当たりました。引き出してみると、それは、高さ3cmほどのの親子の置物でした。象グッズのコレクターである私が、ずいぶん昔に買ったものです。移住を期に多数のグッズを手放しました。
この2体は200円ほどの安価な品物ですが、ぐりんと丸く持ち上がった長い鼻の先に、赤いリンゴを付けている愛らしい姿が好きで、最後まで手元に置いていました。
何を思ったのか、コートのポケットに忍ばせて、カナダまで送ったのでしょう。

思いがけず再会した、赤いリンゴを鼻の先に付けたの親子は、いま、私の仮住まいの洗面台の鏡の前に立ってます。「寒い世界に旅立つ」準備をする私を、毎朝、見守ってくれています。