Sunday 26 October 2014

国民のスポーツ・アイスホッケー

残念な顔で「ずいぶん寒くなってきたね」などと挨拶を交わすけれど、カナダ人の多くは雪が降るのが待ち遠しいのではないか、とよく思うのです。汗をかくことを嫌うカナダ人は、暑い夏よりも極度に寒い冬のほうが、活き活きして見えます。

カナダ人が冬を楽しみにしている理由のひとつに、アイスホッケーの存在があります。アメリカの23チームとカナダの7チームが所属する北米ナショナル・ホッケー・リーグ(National Hockey League、NHLは、毎年、10月から翌年の4月まで試合が行なわれます。アメリカの参加チームが多いのにカナダ人がホッケーに熱狂する理由は、NHLの選手の過半数をカナダ人がしめているからなのです。

ホッケーは、ゴールキーパーを含む6人のプレーヤーが、長い棒を使って、パックと呼ばれる厚さ2.5cmで直径7.6cmのゴム製のボールを、相手チームとつつき合うスポーツです。

長い棒を器用に左右に動かし、パックを氷の上で滑らせます。パックが相手チームのゴールに入れば、点が入ります。

単純なスポーツなのに、なぜ、カナダ人がこんなにも熱狂するのでしょう?

「よろい」に身を包んだ選手たちは最速で時速45km、平均で時速25〜30kmともいわれるスピードで氷の上を滑ります。敵同士がぶつかり合い、殴り合い、時には出血しながら戦います。相手に取られる前に打ったパックが飛びます。パックを取り合うときに折れたスティックが宙を舞います。パックを追いかけてものすごいスピードでリンクを滑り、そして一気に停まります。削り取られた氷が、選手の足下から飛び散ります

なんともスピード感あふれる激しいスポーツなのです。

その激しさにも関わらず、NHLに所属するすべての選手たちは、スーツにネクタイ着用でリンクに「出勤」することが義務づけられています。これはホーム戦、アウェイ戦、どこに出向いても同じです。1994年にカナダ国技と位置づけられたホッケーの重みがここにあります。

なんとも紳士的※。

今年のシーズンは始まったばかり。

オタワには、Senators(セネターズ、通称センズ)というチームがあります。1992年に再度NHLに参加するまでは、オタワにはホッケーチームがありませんでした。そのためフランス系オタワ市民はモントリオールに籍を置くCanadiens(カナディアンズ)を、英国系オタワ市民はトロントに籍を置くMaple Leafs(メープルリーフス)を応援していました。

オタワにセネターズが戻って来たいまでもカナディアンズやメープルリーフスのファンは多く、ホッケーの試合がある夜は、大画面テレビを備えるオタワ市内のバーは歓喜に包まれるのです。

NHLで戦う機会は女性にも開かれています。でも現実は、なかなか難しいよう。 

参考:カナダ国技法NHL公式ルール


2014年10月25日、テロ襲撃後、初めてのオタワでのホッケー試合 
1ゲームは20分x3試合。20分の休憩の間、5cmの厚さのリンクの氷を、表面だけうっすらと溶かしてなめらかに戻します

「よろい」姿の選手たち

14年間キャプテンを務めたアルフレッドソンに変わって、今シーズンからセンズのキャプテンとなったエリック・カールソン

Thursday 23 October 2014

#strongcanada カナダ人と赤色


2014年10月22日午前10時ごろ(日本時間の午後11時ごろ)、私の住む町オタワで銃撃戦が起きました。ひとりの犠牲者を出したこの事件は、オタワに住むカナダ人の心に、深い悲しみと傷を残しました。



平和と自由を真に愛するカナダ人。拳銃と人種差別を嫌います。そして、世界中の難民に手を差し伸べ、弱者に優しく、同性愛者を区別せず、すべての宗教を良しとし、異なる文化や慣習を楽しんで受け入れてきた自国カナダを誇りにしています。



それに加えて、オタワ市民の誇りは自然に囲まれた、平和で美しい町なのです。二本の大きな川を中心に広がった町オタワは、緑でいっぱいです。川に面してそびえ建つ国会議事堂の敷地内は、誰もが自由に出入りできる憩いの場。建物の頂上にひるがえる国旗の赤色は、カナダ人の愛する心を表しているかのようです。その向かいにあるのが、戦没者記念碑です。第一次世界大戦の間、ドイツからヨーロッパ各国の自由を守るために、遠くカナダから参加し、命を落とした兵士たちの記念碑です。多くの戦死者はヨーロッパからの移民で、かつての自国の自由を守るために戦いました。自由を愛するカナダ人の象徴です。

朝の気温がマイナスを指し、町中の木々が鮮やかに色づき、ダウンジャケットに包まれた心がほんの少しクリスマスに向けてときめき始めたこの時期に、事件が起きました。

事件に使われた武器が拳銃であったこと、場所が戦没者記念碑であったこと、事件がテロと呼ばれ、犠牲者が自国を守る兵士であったこと、その兵士が国のために働くことを夢見て地方からでてきた若い父親であったこと、ひとつひとつが、じわりじわりと心をつくのです。

誰からともなく発信され、メディアに取り上げられたひとつのアイデア。

#strongcanada 

24日の金曜日は、赤い服を身につけ、彼を讃えよう。

平和と自由を愛し、武器と差別を憎む。カナダ国旗の赤色は、そんなカナダ人の心の色です。

24日の金曜日、犠牲になった兵士が500km先の町に帰郷します。

(25日に追記:2014年10月24日の金曜日朝、オタワ市内の高速道路沿いは、赤い服を着てカナダ国旗を手に持った人たちで埋め尽くされました。カナダを愛し、カナダに仕えることを誇りとし、スコットランドのキルトに身を包み弾丸が抜かれたラフルを持ち戦没者記念碑の横で「カナダ国の自由のシンボル」となることを志願した若い兵士。カナダ軍の制服を着て、この日カナダのシンボルとなっていたために消えてしまった命でした。彼が乗る車見て、高速道路を走っていた車は脇に寄り停車。多くのカナダ人が、横たわる彼に、平和と自由のために強くたつことを誓いました。


PS. 23日に予定されていたノーベル賞受賞者マララ・ユスフザイさんの、カナダ市民権授与式が、延期になりました。カナダ人と同じように彼女も、平和と自由を愛し、武器と差別を憎む人権活動家です。

もう少し詳しいカナダの平和については、「平和を意味するカナダの国旗」の中で!