さっそうと近付いて来るのは、黒い制服に身を包んだ、20歳くらいの細身の女性。栗毛色のポニーテールを揺らしながら、テーブルに座った客にメニューを配っていきます。
ローストチキンで人気のレストランは、平日の昼だというのに30分待ちの大盛況。
待ちに待ってようやく席に着くと、すぐさま給仕係がやってきました。
「いらっしゃいませ」
けっして慌てず、客ひとりひとりに気を配りながら、彼女はにこやかに会話を続けます。
ランチメニューは10種類以上。加えて、デザートやドリンクがセットになったコースなど、選択肢が豊富にあります。
せっかくですからローストチキン1/4羽を試してみることにしました。「キャッシー」と名札を付けた彼女が再び現れ、注文を取ります。
「付け合わせは何にされますか。ソースは5種類からお選びいただけます。サラダバーとスープバーはご利用ですか。コーヒーはいつお持ちしましょうか」
数分後、キャッシーがコーヒーカップとカトラリーをテーブルに準備。店内の真ん中に設けられたバーから選び取ったスープとサラダで、私たちの昼食が始まりました。
スープとサラダの皿が空いたタイミングで、メインディッシュが運ばれてきました。
ローストチキン1/4羽とフライドポテトが乗った皿の向かいには、ローストチキン1/2とマッシュポテトが置かれ、そのまた隣には焼き鳥3本と焼飯、そのまた隣には牛肉の串刺し1本と焼飯、さらに隣にはローストチキン1/4羽と茹で野菜の皿。
注文通りの料理が、5人それぞれの前にやってきました。
日本によくあるファミリーレストランのような配置のこの店で、キャッシーは15ものテーブルを担当します。客が、カナダのふたつの公用語のうち、どちらの言語で会話しているかを聞き分けて、接客をします。アルコールを楽しむ客の食卓には少し長めに付き、大人数のグループの食卓では、会話を遮らないように注意を払います。
「お味はいかがですか。足りないものはありませんか」
メインの皿に取りかかっている私たちに、キャッシーが声を掛けます。
食事が終わり、私がコーヒーに手を伸ばしたときには、キャッシーが空になった皿に手を伸ばします。そして絶妙なタイミングでコーヒーのお代わりを注ぎにやってきます。
私たちが席に着いてから2時間後。
「食事はお楽しみいただけましたか」
キャッシーが、会計票を綴じた2通のファイルを、支払者ふたりの前に静かに置きました。
彼女は、私たち5人がどのように支払をするかを、注文を取る前に尋ねていました。
会計票の「チップ」の欄に金額を書き入れた支払者は、ファイルにクレジットカードを挟み込み、キャッシーに手渡しました。
「ありがとう。とても楽しい食事ができました」
カナダでは、飲食店で支払うチップの相場は、飲食代金の10~20%と言われています。消費者の感謝の気持ちが、チップに反映されています。