マダム ガッドマイルの家を訪れたのは、カナダに上陸してから数日後のこと。
アパートが見つかるまで仮住まいをしていますが、日本から送った荷物はさすがにひと部屋には入りきらず、仮住まいからバスで20分のところにあるマダムの家の地下室で預かってもらっています。
お目当ては衣類。
気温がめまぐるしく変化するオタワで生きていくには、洋服の着こなし術を身につける必要がありそうです。
5月に入ったこの時期で、朝の気温は0度前後です。日中は5~16度の間を行ったり来たり。これが夜19時ごろまで続きます。そして、夜は0度からマイナスに下がります。
出掛けるときは、下着の上にまずは半袖のTシャツを着ます。その上には薄手のカーディガン、そして厚手(または薄手)の上着に薄手(または厚手)のジャケット。これが基本です。室内はどこも20度くらいと暖かいので、気軽に脱着ができる装いが好ましいのです。
日本から、大量の段ボール箱を船に乗せてカナダに向けて送り出したのには、たったひとつの理由がありました。
カナダに着いたその日から、しっかりと生活をしていけるだけの用意をしておきたかったのです。
この移動は旅行でもなく、転勤でもなく、移住なのです。海を飛び越えたところに位置するカナダに、腰を据えに行くのです。
最低限の身の回り品のほかに、故郷を身近に感じることができる品々を選び段ボール箱に詰めました。それは本だったり、和食器だったり、写真や私宛のカードなどの思い出の品だったり。
「時間は気にしないで。ゆっくり探し物をしてちょうだいね」
とマダム。
地下室に続く階段を降りると、バーカウンターを備えた6畳くらいの広さのリビングルームが現れます。その隣には4畳半くらいのサイズのビリヤード部屋。これらの部屋の向かいにある「倉庫」と化した部屋に、私の荷物が置かれてありました。
箱の数は17個。持参した梱包リストと箱に書かれた番号を頼りに、必要なものを取り出していきます。
ふんわりと箱の中から漂う、懐かしい日本の香り。
このとき始めて、私の決断は正しかったのだと思えました。
送料は予算を超えたけれども、これまで私が使ってきた物たちが、私を外国にいる孤独感から解き放ちます。
思いのほか長居をしてしまったことを詫びて、バックパックにブーツやコートなどの冬服を詰め、マダムの家をあとにしました。
「寂しくなったらいつでも来なさいね」、後ろで聞こえるマダムの声が、私の背中を通過して胸の中を温めます。
それからまた数日後。
外出先で、コートのポケットに入れた手が、何かに当たりました。引き出してみると、それは、高さ3cmほどの象の親子の置物でした。象グッズのコレクターである私が、ずいぶん昔に買ったものです。移住を期に多数の象グッズを手放しました。
この2体は200円ほどの安価な品物ですが、ぐりんと丸く持ち上がった長い鼻の先に、赤いリンゴを付けている愛らしい姿が好きで、最後まで手元に置いていました。
何を思ったのか、コートのポケットに忍ばせて、カナダまで送ったのでしょう。
思いがけず再会した、赤いリンゴを鼻の先に付けた象の親子は、いま、私の仮住まいの洗面台の鏡の前に立ってます。「寒い世界に旅立つ」準備をする私を、毎朝、見守ってくれています。
あなたが東京に移ってきたときの大量の段ボール箱と象の置物を懐かしく思い出しました。(mikami)
ReplyDeleteふふふ。そうでしょ。今回も、あの量とほぼ同じよ。。。
Delete気温の変化が激しい国にいると、衣服の調整が大変だよね。とくにカナダはすごそう・・・
ReplyDelete私もこちらに来て、衣替えはしなくなりました。というか、同じたんすの中で前後に分けてて、いつでも取り出せるようにしています。
お互い風邪ひかないように気をつけようね!
日本では、この時期にセーターを着ているなんて、ありえないものね〜。ほんと、健康には気をつけないと!
Deleteなるほどね~。カナダの気温の変化ってすごいですね。色んなパターンの服を身につけて外出しなければいけないのですね。最初は慣れないかもしれないけど、段々慣れてくるのだろうな~。
ReplyDeleteほんとですね!体調崩さないように気をつけてね~!
ぞうさんが好きだったなんて知らなかった♪ 懐かしい物がふとした時に自分の手元に現れると、その時の自分を思いだしたり・・・・(*^_^*)
沢山の物を送ったけど、お金もかかったけど、最終的には良かったですね!(^^)! 私もそんなこと考えながら、荷物を詰めなきゃって思いました。
新居地でいちからものを揃えるのも良いけれど、ずっと側にあったものに囲まれて生活すると、どこか安心感を覚えます。eriさんも、一年かけていろいろ考えながらパッキングしてくださいね〜。
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